キラくんの愛は、とどまることを知らない

018

 
「主任、これ、お土産です」
 
「……ん? おぉ、悪いな気使わせてっ。どっか行ったのか? ───って……ビーチサンダル? カッコいいな」
 
「(小声)沖縄へ……なんだかじわじわ人気のサンダルみたいです。私達と健二さんと四人で色違いなんです」
 
 私的にはビーチサンダルのくせにこんなに高いのか、と驚いたそのサンダルは、キラくんが健二さんへのついでに主任の分も買ってくれたお土産だ。
 いつもひよ子がお世話になっているから、これからもたぶんひよ子を世話してもらうから、だと言っていた。
 
 私は主任にシーサーのぷにぷに、にぎにぎしてストレスを軽減するアイテムを買って袋に入れてある。まだその存在には気付いてもらえていない。
 
「釣りメンバーでおそろいか、また行きたいなぁ」
 
 釣り……もいいのだが……
 
「主任、釣りは健二さんとお二人でどうぞ───私は見事にダイビングにハマりました」
 
「ダイビング?! え、いいな!」
 
 やっぱり興味津々……主任って、めちゃめちゃアウトドア系男子だと思う。気が合う女性が見つかるといいのだが……
 
「キラくんはインストラクターのライセンスもあるので、何処でも潜れるんです! 今度、近場の島に連れて行って貰う予定です!」
 
 私は沖縄で体験したあの感動を誰かに伝えたくてうずうずしていた。そこに丁度、主任が興味を持ってくれたため、話が止まらなくなってしまう。
 
「え、趣味程度じゃなくてライセンスまで? ……あ、もしかしなくてもそれでクルーザーに船舶免許? ガチ勢だな……」
 
「そうみたいです」
 
 私もいつか、ガチ勢と呼ばれるようになりたい。
 
「ぅわぁ、いいなぁ吉良……俺もキラくんの彼女になりたい……ダイビングしてみたい……」
 
 彼女にはなれないと思う。せめて彼氏……
 
「一緒に行きますか? 次はキラくんと同じライセンス持ちの方二人も一緒なので、一人くらい初心者がいても大丈夫だと思いますよ」
 
 実はサンダルを購入する時、そんな話しが出たのだ。次は白森さんと相馬さんも誘って、さらに健二さんも潜りたいと言っていたから……なら主任も誘うか、と。
 
「いいのか?! 行きたいっ! 幸いにして独身の俺は、金と時間だけはあるんだよ!」
 
 主任……その言葉、なんだか切ないです。
 
 
 
 
 
 


 
 
「っやだ───キラくん……くすぐったい!」
 
 最近、週末まで我慢出来ない、と言って、キラくんが平日に私のマンションに現れる。
 いや、マンションならまだいい。職場に迎えに現れるときまであるのだ。
 
 冷蔵庫にある材料で適当に食事を作り一緒に食べて、二人で一緒に片付けをするのが平日のおウチデートのルーティンだ。
 
 そして、お風呂に入り寝るまでの間、彼はこうしてべったりとくっついて私から離れようとしない。
 耳をかじってみたり、何分間もずっと手ブラしてみたり……
 そして───……
 
「ひよ子は甘えベタで素直じゃないけど、こっちはとても素直だな」
 
 そんな事を言いながら、いつの間にか私の大事な部分に手を忍ばせては、焦らすように中に外にと甘い刺激を与えてくる。気付けば私の下着は濡れており、やがて脱がされるはめになるのだ。
 
「可愛いくて感じやすくて、素直なひよ子なんて、最高すぎて1秒たりとも離れたくない……って俺の相棒(・・)も言ってる───挿って(はいって)もいい? ひよ子……」
 
 どこに? と聞くのは、野暮というものである。
 
「1回だけなら……」
 
「それは……ひよ子次第かなっ」
 
 あぐらをかくキラくんに向かい合い、跨がるように抱き上げられ、腰を落とせばゆっくりと彼が中に入ってくる。
 
 初めての時の痛みや緊張感が、すでに懐かしく思うほどに、私はこういった愛の行為にすっかり慣れてしまった気がする。
 ただ求められるがまま、キラくんを受け入れているようではあるが、間違いなく自分の心が一番満たされていた。
 
 キラくんは行為中、私の声が聞きたい、と囁くが……さすがに自分の住むマンションでは難しい。
 たまに意地悪をされて、つい漏れでる声に興奮するのか、私の中にいる彼のモノがカサを増す時がある。
 
「……」
 
「駄目だ、俺はひよ子に限っては視覚聴覚嗅覚……いや、五感全てに刺激を受けるみたいだ……」
 
 だから俺は悪くない、と言いたげに、彼は激しく私を揺さぶる。
 
 結局いつも、1回では済まない。
 
 
 それでも平日は、彼なりに手加減をしてくれているのか、事後におしゃべりをする余裕は残されている。
 
「今度のダイビング、主任も行きたいって」
 
「ん? ぁあ、誘ったのか? なら、健二にも声かけてやらないとな───すっかりハマりましたね、ひよ子さんっ」
 
「だって、あんなの知ったら……ハマっちゃうでしょ?」
 
 透き通った青い海の中で、色とりどりの魚たち。人間は私とキラくんしかいない。一切の雑音が排除された、信じられないほどに美しい世界だった。
 
「間違いない」
 
 キラくんはクルーザーを管理してもらっているアリーナとは別に、なんと、近くにあるダイビングショップのオーナーでもあった。
 ダイビング中に知り合った仲間に経営は任せている、と言っていたが、彼の人を見る目があるのか、このご時世に赤字経営ではないという。
 
 そして、赤字経営ではない理由が、後日そのショップを訪れた際にわかった。
 
 ショップの店長であるノアさんは、水陸のカメラマンも兼任していたのだ。
 外国の方だということにも驚いたが、日本語がペラペラな彼は、富士山が大好きで日本に留学して、そのまま住み着いたのだという。
 単純な私は、ノアさんの写真を即座に気に入ってしまい、ショップに隣接された展示スペースに飾られていた、一枚の写真の前で動けなくなった。
 
「それが気に入った? キラくんのはちみつちゃん」
 
 ───……はちみつ、ちゃん?
 
「ひよ子です……私の目と脳が……この写真から離れたくないって言ってるみたいです……」
 
「ハハハッ! キラくん、君のハニーは面白いね! ───よかったらあげるよ、もっと引き延ばして額にしておくから、ひと月後にとりにおいで」
 
 ───……あ、ハニー……だから、はちみつちゃんと呼ばれたのだろうか?
 
「いいのかノア? お前、ここに展示してある作品は誰にも売らないって言ってたじゃないか」
 
「もちろん売るつもりはないよ。僕から二人へのプレゼントだ。ここにいる写真()達はみんな、運命の出会いを待ってる。君のスイートにあんなに熱っぽく見つめられて、あの写真()もイチコロだったみたいだしね(ウィンク)」
 
 私はつくづく思った。
 キラくんのまわりにはキャラが際立つ人が多いな、と……
 
「キラくん、私もその中で埋もれないように頑張るね」
 
「……え? 何の話?」
 
 
 打合せとご挨拶を兼ねたアリーナとダイビングショップへの訪問は、私にとって素敵な出会いでいっぱいだった。
 
 
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