キラくんの愛は、とどまることを知らない

side キラ

 

 
「そっかぁ……あの日のひよ子ちゃん、なんだか変だと思ったのよ……そんなことがあったのね……」
 
 ひよ子の夏季休暇が終わり、日常が戻ってきた。
 
 日常とは言え、俺にとってはひよ子と過ごす毎日が尊く儚い夢のようだ。
 
 この日は冬亜と相馬と、健二のバーで待ち合わせた。
 ストーリックスの件の状況確認と、この前のひよ子の一件を共有するためだ。
 
「相馬、弁護士はなんて?」
 
「それが、代表を辞任することを渋っているのか、もう少し考えさせてくれと引き伸ばしにしているようです」
 
「辞任する前に金でも動かそうとしてんじゃないか?」
 
「そうかもしれませんね。それともあの母親が、ひよ子さんに何とかしてもらおうと、時間を稼いでいるのか……」
 
 後者はありえない。接触禁止を言い渡したのだからな。
 
「まぁ、こっちとしては別にもう示談でもいいけどな。金が欲しいわけじゃないし。終わりにして、勝手にひよ子ちゃんに恩を感じさせとけばいいんじゃないか?」
 
 ひよ子に恩を感じさせる、か……なんだろう、そんな姿が全く想像つかない。
 
「あの女子大生が大人しく恩を感じるとは思えませんけどね」
 
「そう! それだっそれなんだよ相馬!」
 
 相馬の言うとおりだ。
 
「接触禁止にして、とりあえずは大人しくしてるんだろ? ならいいじゃないか。これで会社が潰れただのなんだのとなると、今度は捨て身でひよ子ちゃんに稀羅の金を無心してくるかもしれないぞ」
 
「冬亜の言うことも一理あるんだよなぁ……示談で済ます代わりに、二度とひよ子に接触するなってのが一番マシか……」
 
「ねぇ、そもそもひよ子ちゃんはなんて言ってるの?」
 
「ひよ子は、もうその話すらしたくないって感じで、完全にあの二人の存在を記憶から消したそうにしてる」
 
 花火の後、あの日の事を俺が何も知らないと思っているひよ子から、少しだけ話しを聞いた。それを最後にこの件については一切話題に出していない。
 
「よし決まりだ。俺、いつまでもごたごたが続くの好きじゃないんだよ。相馬、さっきの方向で行くと弁護士に伝えてくれ。今月中に片をつける」
 
「わかりました」
 
 こうして、この件は俺達の中で終わりにすることにした。
 
 
 
 
「ところで稀羅、お前いつ結婚するんだよ。仕事を組む関係もあるから、ハネムーンの時期くらい知っときたいんだけど」
 
 冬亜が突然言い出した。
 
「俺は今すぐにでも結婚したいんだけどなぁ……ひよ子は今の気ままな一人暮らしが楽しいみたいなんだよ……だからもう少し楽しませてやりたい」
 
 今では俺が週末のみではひよ子成分が足りず、週に何度も彼女のマンションに泊まりに行っている。そのおかげか、以前よりはだいぶ寂しさは減った。
 
「普通は大好きな人とずっと一緒にいたいっ! って思うもんじゃないのか? 一人暮らしの気ままさに負けたの? お前……」
 
 一人が楽だから独身貫くとか言っているお前にだけは言われたくない。
 
「まったく……お二人はわかっていませんね……ひよ子さんのことです。奨学金の返済などが済むまでは、経済的に稀羅さんに甘えたくないのでしょう。どうしてそんなこともわからないのです?」
 
 逆に相馬、なぜお前はわかるんだ。
 
「奨学金って、いつまで払うんだ?」
 
「平均でいうと、15年間くらいでしょうかね」
 
「じゅっ……っ?! 嘘だろおい……一括払い出来ないのか?」
 
 ───……ひよ子っ! そんなに待てないよ、俺!
 
「それは可能でしょうけど、ひよ子さんはお父様がお亡くなりになる直前まで借金の返済と自分の奨学金の返済とでやりくりされていたのですから、一括返済するようなお金は無いのではないでしょうか……」
 
 俺が代わりに支払ってやりたいが……絶対にひよ子は受け取ってくれないだろう。
 
「そうだ! ひよ子のボーナスを倍々くらいに……」
 
 俺がこっそり上乗せして……
 
「公的機関の給料でそんな裏工作、無理に決まってんだろ。副業も禁止だろうしな」
 
「……」
 
 くそっ……どうしたらひよ子にお金を与えらえるんだ!
 
「宝くじを買わせてみようか……」
 
「さすがのお前も当選番号はいじれないだろ……でも、そう考えると、安くしてもらってるとはいえ家賃はもったいないと思うけどなぁ」
 
「家賃に光熱費に通信費……俺んちにくれば、全部返済に回せるって言うのに……なぜだ、ひよ子……っ」
 
 男三人、知恵を絞るがいい考えが出てこない。
 
 と、そこに女寄りの男が意見を出してきた。
 
「あなた達ね、まずは結婚するってことをひよ子ちゃんに意識させることが先じゃないの? あの子はきっと、目標設定型だから、いつまでに何をするって決まっている方がいいと思うの」
 
 確かに……言われてみれば、沖縄旅行の前のひよ子はとても生き生きと計画的に色々動いていた気がする。
 
「稀羅くんが、いつ頃までには一緒に住みたい、結婚したいって希望を伝えてあげれば、ひよ子ちゃんは具体的に計画を立てられるじゃない」
 
「健二さんの言うとおりかもしれませんね、ひよ子さんにはその方法がもっとも有効かと」
 
 珍しく相馬が他人の意見に賛同した。
 
「……今日から一緒に住みたいし、明日には結婚したい場合は?」
 
「「「……」」」
 
 
 そんなにも残念な奴を見るような目で見ないでくれ。冗談じゃないけど、冗談だ。
 
 
< 47 / 51 >

この作品をシェア

pagetop