私の隣にいるのが俺じゃない理由を言え、と彼は言う
「送ってく」
野田は、静かにそう呟いた。

その言葉に、私は何も返せなかった。
もう、何度も家の前まで送ってもらっている。
飲み会のあと、残業の帰り、終電近くで――

でも、今日は違う。
わかってる。
私も、さっきの言葉を、まだちゃんと受け止めきれていない。

それでも、何か言わなきゃと思っているうちに、
気づけば、いつものマンションの前に着いていた。

「……困らせるつもりはないけど、自覚してほしい」

そう言って、野田は私の顔をまっすぐに見た。
そのまなざしに、視線をそらせなかった。

「じゃあ、また」

それだけ言って、野田はいつも通りの足取りで帰っていった。

なのに、背中がやけに遠く感じた。
何も言えなかった自分が、情けなくて、苦しくて――
でも、どうすればよかったのかも、わからなかった。

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