私の隣にいるのが俺じゃない理由を言え、と彼は言う
「……ふれていい?」

静かに、でも真剣な声だった。
思わず、私は目を見開く。

「え?」

その一言を返すより早く。
許可も何もないうちに――

ふわり、と、体が包まれた。

「ちょっと……!」

思わず声が漏れたけれど、強くは言えなかった。
野田の腕は、やさしくて。あたたかくて。
あまりにも自然で、心地よくて。

「……だって、あまりにも反応が可愛かったから」

耳元で囁かれた声に、また心臓が跳ねる。

「答えは急がなくていい。……でも、ちゃんと考えて」

その声が、今まででいちばん近かった。
そのあと、名残惜しそうに、そっと腕が離れていく。

野田は、私を一度だけまっすぐに見て、そしてくるりと背を向けた。

ドアが静かに閉まり、会議室に私ひとりが残された。
胸の奥が、じんわりとあたたかい。
でも、少しだけ、苦しい気持ちも混ざっている。

まだ何も言えていないのに、どうして、涙が出そうなんだろう。
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