私の隣にいるのが俺じゃない理由を言え、と彼は言う
中に入ると、ふわりとだしの香りが鼻をくすぐった。
そのまま台所の奥へ進むと、ダイニングのテーブルには、所狭しと料理が並んでいた。

煮物に天ぷら、炊き込みご飯に、彩りよく切られた季節の果物。
そして、ガラスの小鉢にちょこんと盛られた、漬け物の数々。

「え、まってまって…」
小声でつぶやいた私は、心の中で大混乱していた。

私、これ……完全にもてなされてる!!

しかもこの品数、明らかに“ちょっと寄ってく”感じじゃない。
これ、だいぶ前から準備されてたやつじゃん。

「遥人から、"友達連れてくかも"って、ちょっと前に聞いたから〜。ほんとは昨日のうちに準備したかったんだけど、今日はおばあちゃんと朝から頑張ったのよ」

お母さんの言葉に、思わず野田を見た。

「……言ったっけ?」
とぼけた顔をしてるけど、絶対言ってた。
おばあちゃんがうんうんと、うれしそうにうなずいている。

「これね、わたしが漬けたのよ。三日三晩、ちゃんと寝かせたの。うちの自慢なんだから、たんとお食べなさい」

そう言って、小さなお皿にそっと漬け物を盛ってくれた。

…やばい。
私、この手の漬け物、めちゃくちゃ好きなんですけど。

もう、ほんとにダメ。
この家のぬくもり、私のツボに直撃してくる。

「いただきます」

手を合わせながら、すでに心はぐらぐらに揺れていた。
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