私の隣にいるのが俺じゃない理由を言え、と彼は言う

化粧っけはないけれど、自然体で上品な雰囲気の、きれいな人が玄関に現れた。
明るい声とともに、ぱっと花が咲いたような笑顔。

「あら、あなたが遥人の……となりの市の人なんでしょ？偶然ねえ。うちと地元が近いなんて、びっくりしちゃったわ」

初対面とは思えないほど気さくなお母さん。
一瞬で空気が和んで、私の緊張も少しだけほどけた。

「あれまあ、かわいらしい人連れてきて……」

声の方を見ると、お母さんの後ろに、腰の曲がった小柄なおばあちゃんが立っていた。白い髪をきれいにまとめて、柔らかく笑っている。どう見ても、80歳はとうに過ぎているはず。

「この子が、遥人の"おともだち"ねえ。はいはい、いらっしゃい」

…うわー。
この手のおばあちゃん、私、本当に弱いのよね。
あたたかくて、柔らかくて、あの笑い方とか、話し方とか……
大好きなのよね、昔から。

「……おじゃまします」

思わず、声がいつもより小さくなった。
野田の実家は、思っていたよりもずっとあたたかくて、
私の中に、ゆっくりと何かが染み込んでいくようだった。