私の隣にいるのが俺じゃない理由を言え、と彼は言う
全身がずぶ濡れになった風花は、川から上がると、ようやく事の重大さに気づいた。

「……うわ、やば……!」

Tシャツもジーンズも、髪の先までびしょ濡れ。
しかも、持ってきた替えの服は、前日の帰省で洗ってもらって干してあったもの。乾いていないから、実家に置いてきたのだ。

「どうしよう……これじゃ、車乗れないよ……」

焦る風花の横で、野田は落ち着いた様子で言った。

「服、貸そうか?」

「えっ……?」

「俺のTシャツと短パンくらいなら、車にある」

あまりにもさらっと言うから、何も言い返せなかった。

「……それ、絶対ぶかぶかじゃん」

「まあな。でも、着替えないよりマシでしょ?」

そう言って、野田はトランクから、黒いTシャツと、グレーの短パンを取り出した。

「……ありがと。借りる」

ちょっとだけ頬が熱くなる。
車のドアを盾にして、急いで着替えると――

「うわ……思った以上に……」

Tシャツはワンピースみたいに長く、袖は肘の下まである。
短パンは紐をきゅっと絞ってもずるっと落ちそうで、何とか手で押さえていた。

「……」

野田が風花を一瞥して、ふっと笑う。

「なに?」

「……可愛いなって」

「……っ!」

さっきまでの冷たい川の水よりも、顔の火照りの方が勝っていた。
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