私の隣にいるのが俺じゃない理由を言え、と彼は言う
「ありがと……借りるね」

車のドアを盾にして、急いで着替えた風花は、タオルで髪をざっと拭いたあと、恐る恐る助手席に戻る。

野田のTシャツは、やっぱり大きすぎて、膝のあたりまで裾が落ちていた。短パンは紐をぎゅっと絞って、なんとか腰で止めている。

Tシャツも短パンも濃い色だから、透けることはないだろうけれど――

(……やばい)

川で転んだとき、水は全身を容赦なく濡らした。
Tシャツの下は、何も身につけていない。
濡れた下着も着ていられなくて、今は……素肌に野田のTシャツ1枚。

(気づかれてないよね……?)

野田は、何も言わず運転席に座り、エンジンをかけた。

助手席との距離は、思っているよりも近い。
Tシャツの中の肌を感じるたびに、風花の心臓はどくどくと音を立てていた。

「……寒くない?」

「う、うん。だいじょうぶ」

(だいじょうぶじゃない……)

風花は腕をぎゅっと胸元で組むようにして、できるだけ無防備にならないように気を張る。
何でもない顔をしていようとすればするほど、逆に意識してしまって、顔が熱い。

(お願い……気づかないで……。触れたり、しないで……)

ちらりと横目で見た野田は、運転に集中しているようで、余計なことは何も言わない。
でもその横顔はどこか楽しそうで、風花の不安と期待は、ふわりと宙ぶらりんに浮かんだままだった。
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