私の隣にいるのが俺じゃない理由を言え、と彼は言う
車内では、取りとめもない話が続いた。
会社のちょっとした笑い話や、地元の食べ物の話。
気がつけば、さっきまでの緊張も、少しずつ和らいでいた。

「……あっという間だったね、今日」

「だな。……てか、うちの方が近いから、寄ってけよ」

「え?」

「洋服、洗濯したら?乾燥機あるし。濡れたままじゃ、帰れないだろ」

野田は、都市部から少し離れた住宅街に住んでいる。

「……いいの?」

「このまま帰すわけにもいかないし。第一、下着まで濡れてるんだろ?」

「っ……!」

風花の顔が、再び真っ赤になった。

「言ってないよ、そんなこと!」

「バレバレ。……まぁ、安心しろ。何かする気はない。今のところは、な」

「……もう、野田ってば……」

言葉ではそう言いながらも、風花は素直にうなずいた。

このままマンションの前で下ろしてもらっても、心もとない。

車はそのまま野田のマンションへと向かって走り出した。

風花は心の中で、静かに深呼吸をする。
野田の部屋に行くのは、はじめて。

淡い期待と戸惑いを抱えながら。
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