私の隣にいるのが俺じゃない理由を言え、と彼は言う
瑠璃が言葉の隙間に入り込むように口を開く。

「今度その五十嵐先輩に会える機会ないの? ちょっと見てみたいかも」

「恥ずかしい…」

そう言いつつ、私も心のどこかで思っていた。
“先輩に会えたらいいな”って。

すると、黙っていた野田がふと口を開いた。

「……今度、営業部で展示会がある」

「え?」

「五十嵐さんが中心になって企画してるやつ。外部向けだけど、社内の人間も見に来ていいことになってるから」

「へえ、そんなのあるんだ」

「興味あるなら、見に来れば?」

言葉を口にする前、ほんの一瞬――野田がためらったのを、私は見逃さなかった。
それは、気のせいかもしれなかったけど。
でも確かに、彼の言葉の奥にある何かが、喉の奥で引っかかった。

「……うん、時間合えば、行ってみようかな」

そう答えると、野田は「ふーん」とだけ言って、それきりグラスの氷をカラカラと鳴らした。

なんでもないはずのやりとりなのに、心のどこかに沈殿していくような、妙な余韻が残った。
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