私の隣にいるのが俺じゃない理由を言え、と彼は言う
「ねえ、五十嵐先輩って、同じ営業部なんでしょ?どんな感じなの?」

瑠璃は、私が聞いてほしいことを聞いてくれた。
唐揚げをつまみながら、目の前の野田に顔を向ける。

「風花がいつも“カッコいい”って言ってるからさ。気になるな」

私はちょっと恥ずかしくなって、グラスを両手で包んだ。

野田はといえば、グラスを持ったまま、ちらりと私の方を見てから、瑠璃に視線を戻す。

「……仕事できるし、見た目も悪くないし。上司ウケもいい。文句ないタイプじゃね」

「やっぱそうなんだ。優しいって聞いたけど?」

「そうだな。優しすぎるぐらいには、誰にでも」

「誰にでも?」

「そう、誰にでも。後輩女子にも、男にも、営業先にも。全部平等でスマート」

言葉にトゲはなかったけど、その“平等”という単語だけ、少しだけ重く響いた気がした。
私は笑ってごまかそうとした。

「え~、でもそれって逆にすごくない? 全方位に気配りできるって、簡単じゃないよ?」

「まあ、な。風花が好きそうなタイプだな」

「……え?」

不意に名前を呼ばれて、思わず顔を上げた。
野田は、からかうでもなく、ただまっすぐに私を見ていた。

それ以上は何も言わずに、グラスの焼酎を口にする。
その動きが、やけに静かで、大人びて見えた。

なんだろう。
いつもの軽口じゃない。
ちょっと、苦い。

野田が、どこか違って見えた。
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