私の隣にいるのが俺じゃない理由を言え、と彼は言う
帰りの車の中、エンジンの音だけが静かに響いていた。
私は窓の外をぼんやりと眺めながら、胸の奥でずっと鼓動が跳ねているのを感じていた。

さっきのことが、頭から離れない。
気まずさと、恥ずかしさと、それから……なんとも言えない温かさが、混ざり合って。

野田も無言だった。
運転に集中しているようで、でもときおりちらりと私のほうを見ては、何も言わず前を向いた。

そして、私のマンションの前に車が停まった。
シートベルトを外しかけたそのとき、野田が、ぽつりと口を開いた。

「……さっきは、ごめん」

私は手を止めた。

真っ直ぐではなく、でもどこか迷いを含んだ声。
返事をしようとして、言葉が詰まる。

嫌じゃなかった。
でも、恥ずかしかった。
そして、私は――。

「……ううん」

かろうじて、それだけ答えた。
野田が少し驚いたようにこちらを見た。

「……また、会ってくれる?」

それは、まるで「次の一歩」を私にゆだねるような声だった。

私はうなずいた。小さく、小さく。

「また連絡する。気をつけて上がって」

そう言って野田が私のカバンを手渡してくれる。

車を降りて振り返ると、野田はまだそこにいた。
そして、私がエントランスに入ったのを確認してから、車を走らせた。


部屋に戻ってドアを閉めたとき、心臓がやっと「落ち着くふり」をし始めた。
でも、本当は、胸の奥がずっと熱を持ったままだった――。
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