私の隣にいるのが俺じゃない理由を言え、と彼は言う
私はフフッと笑って、前を向いた。
エレベーターは静かに階を下っている。

その横顔を見ていた野田が、不意に口を開いた。

「……お詫び、させて」

「お詫び?」

私は思わず聞き返す。

「昨日のこと、俺が……勝手に雰囲気作って、困らせたよな」

真剣な声色だった。
いつもの軽い感じじゃない。
野田の視線が、私の頬に刺さる。

「だから。こんど、どっか食事行こう。俺がおごるから」

「え?」

突然すぎて、思考が追いつかない。
でも、野田の顔はまっすぐだった。
照れくささと誠意が入り混じったような表情。

「ダメって言ったら、引きずってでも連れてくけど?」

「……俺様」

思わずつぶやくと、野田がふっと笑った。

「ああ、やっといつもの高宮に戻った」

「うるさいな」

私も笑い返した。
エレベーターが1階についた音が、やけに優しく響いた。
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