私の隣にいるのが俺じゃない理由を言え、と彼は言う
唇が触れて、すぐ離れるかと思ったのに――
野田は、そのまま私の頬に手を添えて、深く、確かめるように口づけてきた。

まつげが触れる距離で見つめられて、逃げることもできない。
心臓の音が苦しいほど響いて、自分の声すら聞こえなかった。

「……ごめん、止まらなくなったら」
「……いいよ」

その一言で、全部が解けた。

野田は私をゆっくりと抱き寄せた。
ソファのクッションが沈んで、彼の腕の中にすっぽりと収まる。
すぐ近くで聞こえる吐息。シャツ越しに感じる体温。
野田の手が、丁寧に私の髪を撫で、耳の後ろに指を滑らせた。

「触れていい?」
そう囁かれて、私は小さくうなずいた。

首筋にそっと唇が触れた瞬間、びくりと身体が震える。
野田の指先は慎重すぎるほどやさしく、でも迷いはなくて。
私の肌の上をなぞり、何度も確かめるように、存在を重ねてくる。

「……風花、俺、すごく我慢してた」
「……うん、わたしも」

私の頬に落ちたキスは、胸元へ、そして肩へと移っていく。
シャツの隙間から滑り込む指が、熱を引き出すように触れるたび、声を堪えるのに必死だった。

「声、がまんすんなよ」
「……恥ずかしい」
「かわいい」

耳元に吐き出される声が、甘くて苦しくて、体の奥まで痺れた。

ゆっくりと時間をかけて、ひとつひとつ、確かめるように。
まるで壊れ物に触れるみたいにやさしく、でも確実に欲を重ねてくる。

シャツの中に差し込まれる手。
からまる指。
互いに乱れていく呼吸のなか、私はもう、言葉を忘れていた。

「……好きだよ、風花」

ぴたりと額をくっつけたまま、微熱のような吐息だけが重なる。
夜は、深く、静かに、私たちを包んでいった――。
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