私の隣にいるのが俺じゃない理由を言え、と彼は言う
「……風花、ベッド、行こうか」

野田の声は低く、けれどどこか優しくて――逃げ場を与えてくれている気がした。
私はそっとうなずいた。手を引かれて、眠るための場所へと導かれるけれど、今夜のそれはまるで、違う意味を持っていた。

ベッドの端に腰をおろした私の前で、野田がゆっくりとしゃがむ。
目線が合う。そのまま、私の手を取った。

「……怖くない?」

「……うん」

震える声でそう言うと、野田の瞳がすっと和らいだ。
私の手の甲に、唇をひとつ落とす。その仕草に胸がきゅっと締めつけられた。

シャツのすそに指がかかる。
「脱がすよ」
「……お願い」

ふたりの間にある空気が、また一段階熱を帯びる。
肩をなぞる彼の指先が、私を一枚ずつほどいていくたび、肌の上を冷たい空気と彼の吐息が交互に触れた。

野田の目が、恥ずかしいくらいに真っ直ぐ私を見ていた。
でも、いやじゃなかった。
そのまなざしに包まれていると、すこしずつ、不安や恥ずかしさが溶けていった。

「……かわいすぎるって、思ってる」
耳元でささやかれて、私は思わず目を閉じた。

今度は、彼のシャツのボタンを、私がひとつずつ外していく。
緊張で指先が震えるけど、それでも止まらない。
彼の肌に触れるたび、胸の奥が甘く痺れる。

抱きしめられたその背中に、私は自分の頬を寄せた。
ぬくもりが、匂いが、心地よくて、愛おしくて――すがるようにしがみついた。

ベッドに倒れると、野田がそっと上から覆いかぶさってくる。
手のひらが私の頬を包み、口づけが落ちる。
何度も、何度も、確かめるように。唇が重なって、身体が密着していく。

「……止めるなら、今」
「止めないで」

そう答えたとたん、深く、熱いキスが降ってきた。
目を閉じて、その全てを受け入れる。
言葉はいらなかった。

彼の手が、腰へ、脚へ、ゆっくりと滑っていく。
すでに肌と肌が触れあっているのに、もっと深く繋がりたくなる。

心が溶けてしまいそうな夜。
私のすべてが、野田に染まっていく――
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