私の隣にいるのが俺じゃない理由を言え、と彼は言う
夜。縁側から涼しい風が吹き込む、夏の田舎の夜。

「はい、風花ちゃん。これ、うちの名物よ」
おばあちゃんが出してくれたのは、山菜のおこわに、季節の野菜の天ぷら、小魚の甘露煮、それに、煮しめやお漬物までついた、心尽くしのご馳走。

「わあ……すごい……」

私の目がまるくなるのを見て、野田のお母さんが笑った。
「風花ちゃん、いっぱい食べてね。ふだんはこんなに頑張らないんだから、ほんとに特別よ」

「うちのばあちゃん、気合い入れるとすごいんだよな」
野田がちょっと得意げに言う。

私は箸をとった。口に入れた瞬間、優しい味が広がって――

「……すごく、美味しい……!」

ほんとうに、美味しい。
懐かしいのに新鮮で、どれもあたたかくて、愛情がまっすぐに伝わってくる。

「たくさん食べて。風花ちゃん細いんだから」
おばあちゃんがにこにこしながら、私の皿に次々おかずをのせてくれる。

私は笑って、「はい」と素直にうなずいた。

――こんなふうに、もてなしてくれる。
私が、どれだけ歓迎されているかが、痛いほど伝わってきた。

「……ありがとうございます」
ぽつりとつぶやくと、野田が私の隣で静かに言った。

「俺が連れてきたくなる理由、分かった?」

「うん……すごく、分かったよ」

おばあちゃんとお母さんと野田。
みんなの優しさに包まれて、私は、こんな夜がずっと続けばいいと思った。
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