私の隣にいるのが俺じゃない理由を言え、と彼は言う
営業部のブースを目指して歩いていたら、人の流れが少し途切れたところで――
私はふと、その姿を見つけた。
「……あ」
立ち姿ですぐ分かった。
スーツが似合う背の高い体格、柔らかく整った横顔、来場者に笑顔で頭を下げる姿。
五十嵐先輩。
「風花?」
先に気づいたのは、先輩のほうだった。
私の名前を見つけたように目を細めて、小さく手を振ってくれる。
「お疲れさまですっ」
私は思わず一礼して、それから駆け寄るように歩いた。
先輩はさりげなく私と瑠璃のいるほうに近づいてきて、目元を緩めた。
「まさか来てくれるとは思わなかったな。チケット、野田にもらったの?」
「はい。」
「そっか。どう? 面白そうなのあった?」
「はい、すごく見ごたえあります! パンフレットも資料も分かりやすくて……」
「さすが、仕事熱心だな」
そう言って笑う先輩の声に、心臓がふっと跳ねた。
「風花も、野田も、いつも一生懸命で感心してるよ。入社して半年なのに、しっかりしてるよね」
「い、いえ……そんな……」
緊張して目を伏せた私に、先輩はやわらかく言葉を続けた。
「また社内でも、いろいろ頼むと思うけど、よろしくな」
「はいっ。こちらこそ、よろしくお願いします!」
先輩は短く頷いて、再び来場者の方へと向き直った。
その背中を、私はしばらくの間、目で追っていた。
「……確かに完璧なイケメン」
ぽそりと耳元で囁かれて、私は反射的に飛び跳ねそうになった。
「瑠璃!」
「ふふ、わたし、ちょっと他のブース見てくるね。また後で」
ひらひらと手を振って瑠璃が去っていく。
私は、一人その場に残されて、なんとなく胸の奥がふわっと浮いているのを感じていた。
まさか声をかけてもらえるなんて――
それに、“しっかりしてる”って、褒めてもらえたなんて。
展示会に来てよかった。
そう思って振り返った、そのとき。
少し離れた柱の影。
人の波に紛れるようにして、こちらをじっと見ていた視線があった。
視線の先には、野田の姿。
何も言わずに、ただこちらを見つめるその目が――
少しだけ、冷たいように感じた。
私はふと、その姿を見つけた。
「……あ」
立ち姿ですぐ分かった。
スーツが似合う背の高い体格、柔らかく整った横顔、来場者に笑顔で頭を下げる姿。
五十嵐先輩。
「風花?」
先に気づいたのは、先輩のほうだった。
私の名前を見つけたように目を細めて、小さく手を振ってくれる。
「お疲れさまですっ」
私は思わず一礼して、それから駆け寄るように歩いた。
先輩はさりげなく私と瑠璃のいるほうに近づいてきて、目元を緩めた。
「まさか来てくれるとは思わなかったな。チケット、野田にもらったの?」
「はい。」
「そっか。どう? 面白そうなのあった?」
「はい、すごく見ごたえあります! パンフレットも資料も分かりやすくて……」
「さすが、仕事熱心だな」
そう言って笑う先輩の声に、心臓がふっと跳ねた。
「風花も、野田も、いつも一生懸命で感心してるよ。入社して半年なのに、しっかりしてるよね」
「い、いえ……そんな……」
緊張して目を伏せた私に、先輩はやわらかく言葉を続けた。
「また社内でも、いろいろ頼むと思うけど、よろしくな」
「はいっ。こちらこそ、よろしくお願いします!」
先輩は短く頷いて、再び来場者の方へと向き直った。
その背中を、私はしばらくの間、目で追っていた。
「……確かに完璧なイケメン」
ぽそりと耳元で囁かれて、私は反射的に飛び跳ねそうになった。
「瑠璃!」
「ふふ、わたし、ちょっと他のブース見てくるね。また後で」
ひらひらと手を振って瑠璃が去っていく。
私は、一人その場に残されて、なんとなく胸の奥がふわっと浮いているのを感じていた。
まさか声をかけてもらえるなんて――
それに、“しっかりしてる”って、褒めてもらえたなんて。
展示会に来てよかった。
そう思って振り返った、そのとき。
少し離れた柱の影。
人の波に紛れるようにして、こちらをじっと見ていた視線があった。
視線の先には、野田の姿。
何も言わずに、ただこちらを見つめるその目が――
少しだけ、冷たいように感じた。