甘い記憶を溶かしたら
 少し前髪が重めでパソコンに向かっている男の子。その髪型では表情がよく見えない。

栗田(くりた)
「……はい」
「遠野さん。栗田も挨拶して?」
「あ! 遠野です! 今日からよろしくお願いします!」

 森下さんに紹介されて頭を下げると沈黙。いきなり何かやらかした? 不安になって頭を上げるとパソコンから顔を上げてくれていた栗田さんは長い前髪の中からジッと見つめていて目が合うと逸らされた。

「……っす」
「……」
「ちゃんと挨拶」
「……お願いします」

 ――クセ強。

「ごめん。愛想ないけど悪いヤツじゃない」
「は、はぁ……」
「鈴原さんのテンションと足して割りたいくらい……」

 ぼやくように言われてまた吹き出してしまったら森下さんは優し気に見つめて笑った。

「今日からここが遠野さんのチーム、よろしく」
「……よろ、よろしくお願いします」
「わかんないことは何でも相談して」
「はい……」

 ひとりドギマギして慌てる私とは違ってずっと落ち着いている森下さん。向こうは気づいていないのか。サラリと業務説明に入っていくからまた慌ててしまう。

 ――そりゃそうか……覚えてるわけないよね。

 私が一方的に見つめていただけで、覚えているわけがない。なぜなら森下さん――昴先輩は仲良くしていた腐れ縁みたいな友達・莉久(りく)のお兄さんだから。

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