甘い記憶を溶かしたら
 甘えていいんだろうか。そんなのどうしたらいいかわからない。

 甘えられることは多くても甘やかせてもらえることがそもそもあまりなかったのだ。だからそんな受け止めてもらえることに慣れていない。

「遠野さん、ひとりで結構考えて抱えちゃうタイプかなって。真面目で努力家なんだろうけど……そんなにずっと気を張らなくていいよ? 甘えるって人を信頼するってことだからさ」
「信頼……?」
「素直な気持ちでいいんじゃないかな」
「素直……」
「もちろん迷惑ならハッキリ言って?」
「迷惑……」

 さっきから昴先輩の言う言葉をオウム返しばかりする私に昴先輩が吹き出した。

「もう夜も遅いし、ひとりで帰すには心配。送りたいから送らせてくれる?」

 当たり前のように拒否した私に、そんな風に言ってもらって嬉しくないわけがない。俯いてしまった私だけれど、迷いながらも頭を小さく縦に振った。それは真っ赤になった顔を見られたくなかったから。

「迷惑なんて、ありません。お言葉に……甘えます」

 甘えること。自分の思う気持ちに素直になって向き合うとこぼれ落ちた言葉だってやっぱり素直な言葉で。

「うん、一緒に帰ろ」

 それは相手にも快く響く。
 相手の好意を素直に受け止めてそれに気持ちよく応えること。遠慮ばかりじゃなく甘えることは相手にも喜びになる。私だって昔は喜ばれることが嬉しくて手を広げて受け止めてきたのに。今は自分の気持ちばかり優先して満たされない思いを募らせていたのかもしれない。
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