漂う花は、還り咲く

「普通に……見えてたけど」


結翔が小さく笑う。


「六花、あそこほぼ真っ暗だったぞ?」


「え、そうだっけ」


言われてみれば、暗かった気もする。


でも——見えなかった、ってほどじゃなかった。


「足掴まれたとこも、何されたか分かってたし」


口にしながら、自分でも少しだけ引っかかる。


「あのクモもさ、糸の感じとかリアルで——」


「いや、無理だろ普通」


晴が苦笑いする。

「俺、形ぼんやりくらいしか分かんなかったぞ」


「え、そうなの?」


思わず周りを見る。

伊織も、千隼も、結翔も。

どこか引っかかったような顔をしていた。


「六花、それ普通じゃねーから」

「えぇ……?」

そんなこと言われても。


「でも、暗いほうが見やすいっていうか……」


口に出した瞬間、少しだけ思考が止まる。



——昔から、そうだった気がする。

夜道でも困ったことはないし、停電でも平気だった。



「……六花、見えてたからこそ怖かったんじゃね?」


「それはあるかもな」

「俺ら、口裂け女いたのすら分かってねぇし」


「え、うそ!?めちゃくちゃリアルだったよ!?」


思わず声が大きくなる。


その反応に、みんなが一斉に笑った。


「そりゃビビるわ」

「納得した」


笑いに包まれる中で、ふと——

さっきの“違和感”が、少しだけ胸に残る。


甘いはずのクレープを、もう一口かじる。

……やっぱり、少しだけ味が薄かった。



どうしてだろう。

さっきから、胸の奥に小さな引っかかりが残っている。

気のせい、だと思いたいのに。



「あれ、六花じゃん!」


不意に名前を呼ばれて、顔を上げる。


「さやちん!みーたん!」


思わず立ち上がって、二人のもとへ駆け寄る。
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