シンユウノススメ
「麦ちゃん…」

「ナオくんはもう死んじゃったよ」

「…」

「もう居ないんだよ。でも家族は生きてる。メイちゃんの帰りを待ってる。きれいなままのメイちゃんを。どんなに情けない親でもメイちゃんは助けてあげたかったからムギを利用したんでしょ。命を繋いでまで。自分は最後にムギを裏切るかもしれない鬼を心に棲まわせたままで。だったらとことん利用しなよ。親も妹も天国まで引っ張り上げておいてまた地獄に堕とすの?」

「菊地くんは私と付き合ってなければ死なずに済んだのに!」

「たらればを言い出したらキリないじゃん。じゃあメイちゃんがムギを助けなければそもそもこんなことは起きなかったよね。その代わり家族も救えなかったけど。ねぇ、もう死んじゃった人間と、まだ生きてる妹と親、どっちが大事なの?」

「それは…」

「なぁに、メイちゃん。ムギはメイちゃんの力になりたいだけなの。だぁーいすきなメイちゃんの力に」

「麦ちゃん…助けて…」

遠くで鳴り止まない蝉の声。
木々の間をすり抜けてナオくんの横顔をキラキラと照らす木漏れ日。

額、背中を流れる汗。

ムギとメイちゃんの呼吸音も罪になりそうなほど、神聖な場所に思えてしまった。

木々の間から見える青。

メイちゃんとナオくんをフィルターで包んだみたいに反射して見える赤。

瞬きをするたびに紫が点滅する。

「隠そうか」

「隠す?」

「ナオくんのことなんて知らない。一人でお散歩に行って、帰って来なかった。事故かもしれない。山は捜索されるかもね。でも見つからなければ迷宮入り。ムギもメイちゃんも何も知らないって貫き通してただ泣いていればいい」

「そんなことできないよ、だって菊地くんのこと好きだもん!」

「鬼になるの。大切な恋人の命と引き換えに、ムギともう一度ちゃんと親友になるんだよ。これは契約だから。家族を守る為に。できるでしょ?大丈夫。ムギはメイちゃんのことが変わらず大好きだから。神様の為ならなんでもしてあげる」
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