百花繚乱
「あの…お代は……」

私がそう言うと、あの方はお医者様の側に、寄って行った。

「父さん、瀬戸さんは、僕と同じ学校に通っているんだ。同級生のよしみで、お代はタダにしてやってよ。」

「ああ?仕方ない。今回は、紳太郎の顔を立ててやろう。」

「ありがとう、父さん。」

そして私は、振り向いたその笑顔に、すっかり心を奪われてしまったのだった。


「今日は、本当にありがとうございます。」

病院の外まで、送ってくれたあの方に、私は頭を下げた。

「一人で帰れますか?」

「はい。」

「なら、ここで。」

あの方は素っ気ない感じで、くるっと背中を見せた。

「あ…あの、紳太郎さん!!」

突然の呼びかけに、あの人は驚いているようだった。

確かお父様が、あの方を紳太郎と呼んでいたような気がしたけれど、もしかして間違えていたのかしら。


「はい。」

けれどあの方は、身体をこちらに向けて、真っすぐ私を見ている。

< 38 / 67 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop