百花繚乱

深雪 ~みゆき~

その翁が訪ねて来たのは、旦那様が亡くなられて、間もなくの事だった。

「突然、訪ねてしまってすまないね。」

「いいえ。こちらは一人暮らしですから、返って誰かが来て下さると嬉しいんです。」


ずっと真木家にお仕えして、結婚もせず独り身でいた私は、近くに借家を借りて、住んでいた。


「それで……お話を伺いたいと言うのは……」

「ああ、実はご主人との話を、お聞かせ願いたい。」

「旦那様との?」

お茶を出す私の手が、止まった。

そっと、翁の目を見てみる。

このお方は、なぜそのような事を申されるのか。


「……ご主人の、真木伸太郎さんの、姉君のようなお方だったと、お聞きしています。」

「……姉君ですか。」

私は隣の部屋にある、テーブルと椅子を眺めた。

珍しい洋式のテーブルと椅子で、私と旦那様は、いつもここに座りながら、お酒を飲んでいた。


「そうですね……少しだけ思い出話に、付き合って頂けますか?」

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