夢の続きを、あなたと
「これ……商品としてもいけるね」

 雄馬がぽつりとつぶやく。

「うん。でも、最初の一個だけは売らない。これはうちらの『始まり』だから」

 私はそう言って、時計をそっと抱えた。
 彼も何も言わずに、ただ頷いた。

 こうして、“欠けたフレームの時計”は、私たちのユニットの最初の作品になった。
 名前はまだない。でも、きっとこの一歩が、次の何かを連れてくる。

 時はもう、ただ過ぎていくだけじゃない。
 私たちの手で、少しずつ意味を持ちはじめている。
 
   * * *

 雄馬と共同で雑貨を制作した翌日、私は曽我さんと再び面談をして、退職する気持ちを伝えた。
 専門学校を卒業後の進路を決めた時、私は安定を望んで就職したけれど、今はもうその迷いはない。
『人生は一度きり』なら、今度こそ本当に自分がやりたいことをやってみたい。

 曽我さんは、私の意思に揺らぎがないことを確認した上で、退職時期の相談に乗ってくれた。


 そして休日、私たちは工房の片隅を借りて、廃材を使ってリメイク雑貨を作った。
 平日の夜にメッセージアプリでやり取りをしながら、私たちはたくさんの案を温めていた。

 作業をしながら、私はふと雄馬に問い掛ける。

「ねえ、雄馬。四月から独立開業する屋号の『佳宵』って、どんな意味があるの?」

 私の問いに、電動やすりで角を落としていた雄馬が作業の手を止めた。
 そして、深呼吸をひとつ吐き、ゆっくりと口を開く。

「佳宵……、美月、お前のことだよ」

 雄馬はそう言うと、私の元へ近付いてくる。

「古語で、佳宵は『美しい月』って意味だ。空を見上げれば、月が見える。遠く離れていても、月の美しさは変わらない。俺、美月と別れてからも、ずっとお前のことを想っていたよ」

 突然の告白に、私の手が止まる。

「俺……、いつか、職人としてではなく人生のパートナーとして、もう一度美月の隣に並べるよう頑張る」

 雄馬はそう言うと、再び電動やすりを手に取り、廃材の面取りを始めた。

 雄馬の告白に、私は作業の手が止まったままだ。

 雄馬が、今でも私のことを好き……?

 嬉しい気持ちと、自分が雄馬の隣に並んでいいのかという戸惑いが交互に押し寄せる。
 職人としてのブランクも、原因の一つだ。

 けれど、いつか自分に自信を持てる日が来れば、その時は──

 あの頃の夢の続きを、あなたと一緒に紡いでいく。
 

【終】
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