夢の続きを、あなたと
「これ、いいじゃん」

 雄馬はスケッチをじっと見てから、少し笑った。

「こういう発想、やっぱ美月だよな」

 なんでもないひと言だけど、胸のどこかがまたトクンと鳴った。

「じゃ、分担どうする?」

「フレームの磨きと塗装は俺がやる。機構と盤面デザインは美月に任せる」

「了解。仕上げは一緒にやろう。秒針、真鍮でつけたいんだけど、ある?」

「あるよ。細めのやつ、切って使える」

 作業が始まると、ふたりの会話は必要最低限になる。

 でも、それがいい。

 息が合う。リズムがある。
 私たちは、言葉じゃなく手で会話する感覚を思い出していた。

 フレームを紙やすりでなめらかにし、ウォルナットのステインで色を馴染ませる。
 雄馬の手が木の表面を丁寧になでるたびに、欠けた角にもなぜか温かみが宿っていく。

 私は盤面の中央に、小さく文字を入れた。

> “No time is wasted.”(無駄な時間なんてない)

 それは、自分への言葉でもあり、彼との時間への答えでもあった。

 時計が完成したのは、夕方を少し過ぎた頃だった。

 陽が落ち始めた工房の窓から、橙色の光が差し込む。
 完成した時計がその光に照らされて、欠けた部分までも美しく浮かび上がった。

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