まだ君は知らない、君の歌
放課後の帰り道。
制服のスカートの裾が風に揺れて、ちくちくと太ももをくすぐる。
下を向いたまま歩く足取りは、地面の模様ばかりを追っていた。
(……私なんかが……)
本当に、あの音の中にいていいのだろうか。
やっぱり場違いなんじゃないだろうか。
みんなは優しいからいつも褒めてくれるけれど、あの言葉に相応しくあれているかどうかは──正直、わからない。
でも──
「一ノ瀬さん」
背後から名前を呼ばれて、はっとして顔を上げた。
「……片桐くん……」
「奏良って呼んで」
「うぇ!?」
「俺も絃音って呼んでいい?」
私は、ぎこちないながらに何とか首をコクコクと縦に振った。
クラスメイトで、イケメンで、人気者で。
天才ギタリストで、軽音部の中心人物。
そんな彼が、私なんかの名前を呼んでくる。
それだけで、胸の奥がきゅっと音を立てて、跳ね上がった。
「帰り、一緒にいい?」
「えっ」
またも間抜けな声が漏れてしまったけど、奏良くんは気にする様子もなく微笑んで、当然のように隣に並んできた。
「絃音、すごく疲れてる顔してるから」
そう言って、ゆっくりと歩幅を合わせてくれる。
その一歩一歩が、まるで心を優しくなでるみたいで、少しだけ息がしやすくなった気がした。
「……あの、なんで……」
「心配だから」
その声は、あまりにも優しかった。
まるで、壊れものをそっと包むような柔らかさで。
それは、軽い好意とか憧れとか、そんな言葉では足りない眼差しだった。
本当に“心から大切に思ってる人”を見る目だった。
(……どうして……)
私は、ただ戸惑うことしかできなかった。
「……私、別に……」
「自信がないんだよね?」
「──!」
胸の奥を突かれたように、言葉に詰まった。何も言い返せない。うつむいたまま黙ってしまう。
でも奏良くんは歩みを止めずに、穏やかに続けた。
「俺さ」
彼の声は、とても穏やかだった。
「君の声、聴いた瞬間に恋したんだ」
「……え?」