さっちゃんの足跡

29. ママからの手紙

 ママは仕事を終えて家に帰ってくると夕食の準備をしてから点地盤に向かいます。
一覧表を見ながら一文字一文字丁寧に打っていきます。
 活字は【書く】って言うんだけど点字は【打つ】って言うんですよ。
六つの点が一枡の中に並んでます。 1,2,4の点が{あいうえお}を表しています。
3,5,6の点が「か行」から「ら行」を表しているんです。
だから「1」 「1,6」 「4,1,3,5」 「3,5,6」と打ったら「あ、か、ちゃ、ん」なんです。
 理屈を覚えてしまえば簡単にも思えますが、たいていの人たちは「あからんまで完璧に覚えよう。」とするんですね。 だから難しくてやめたくなるんです。
 その中でもママは必死に点字を練習してます。 さっちゃんに手紙を書きたくて。

 この春からずっと練習してきました。 そしてようやく、、、。
「さっちゃん、お手紙が来てるよ。」 寄宿舎に帰ってきたさっちゃんに寮母さんが封筒を渡してくれました。
その裏には「ママより」なんて書いてあります。 開けてみると、、、。

 『さっちゃんは。 おがんきですか。 みみもがんばいてます。
ぶんきゅうめたいぬんでしょう。 づもさっちゃんにれがんびれつよぬ。』

 懸命にママが書いてくれた手紙です。 でもさっちゃんは思わず大笑いしてしまいました。
同室の友達は怪訝そうな顔をしてます。 それもそのはず。
まさか、ママがこんな変な手紙を一生懸命書いてくれたなんて言えないから。
その夜、さっちゃんは電話でママと話しました。
 「手紙は届いた?」 「うん。 届いたよ。」
「どうだった? さっちゃん先生。」 「うーーん、30点かな。」
「そうなのか。」 ママはやっと書いた手紙をそう言われて半分泣きそうになりました。
でもいいんです。 いつかさっちゃんに負けない手紙を書いてやるのだ。
そう決心したママなのでした。
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