伝えたい想いは歌声と共に

妹でよかった

(わ、私、何言ってるんだろう)
 思わず言ってしまった言葉。
 それからすぐに、大変なことをしたって気づく。
 ユウくんに、好きって言っちゃった!
 そりゃ、いつかは伝えたいって思ってたけど、今言う気なんてなかったのに!
「ち……違うの。これは、その……」
 慌てて誤魔化そうとするけど、どうしていいのかわからない。
 いきなりこんなこと言われて、ユウはどう思ってる?
「……藍」
「は、はい!」
 名前を呼ばれただけで、びくりと震える。
 続きを聞くのが怖くて震える中、ユウくんはさらに続けた。
「ありがとな」
「…………えっ?」
 時が止まったような気がした。俯いていた顔を上げると、ユウくんはにこやかに微笑んでいた。
「藍にそう言ってもらえて、すごく嬉しいよ」
 優しい声で告げるユウくん。だけど、それを見て思う。
(……違う)
 きっと、嬉しいって言葉に嘘はない。ユウくんは喜んでくれている。
 でも、それだけ。私が感じているような緊張もドキドキも、ユウくんには無い。
 それに気づいた時、急に心の奥が冷たくなるのを感じた。
「俺も、藍のこと好きだよ」
 この好きって言葉にも、一切の嘘はないんだろうな。
 けどわかってしまう。ユウくんの言う好きは、私の好きとは違うってことを。
「それって、私が妹だから?」
 答えなんてわかっていて、それでも聞いてみる。
「もちろんだよ。藍のこと、本当の妹みたいに思ってる」
 やっぱりそうだよね。私が言ったのが恋としての好きだってこと、気づいてもいない。それがわかって、ズキリと胸が痛む。
 だけど、だけどね。同時に、少しだけホッとした。
(恋としての好きだって、気づいてなくてよかった。気づいたら、きっと困らせてたから)
 ユウくんは、誰に告白されても付き合う気なんてなかった。それならきっと、私の気持ちを知っても、受け入れてもらうのは無理だよね。
 それなら、勘違いしたままの方がいい。そう自分に言い聞かせる。
 だからもう、この話は終わりにしよう。
「宿題も終わったことだし、今日はもう寝ようかな」
「あ……ああ」
 急に話題を変えたもんだから、不自然に思われたかもしれない。
 ユウくんは怪訝な顔をするけど、何か言われる前に、席を立ってベッドの中に入る。
「お休み、ユウくん」
 こうなると、ユウくんも話を続けるわけにはいかない。少しだけ迷った後、押入れの中に引っ込んでいった。
「お休み、藍」
 最後に掛けられた言葉は、どこか心配そうだった。
 急に変な態度になってごめんね。けど、こうするしかなかった。平気な顔をしておくのも、限界だったから。
 電気を消して頭から布団をかぶると、クシャリと顔が歪む。
 私の好きが伝わらなかったこと、やっぱりショックだった。けどそれと同じくらい、ううん、それ以上に、ユウくんの言葉が心の中にひっかかる。
『もし付き合ったとしても、いつまで続くかわからない。いつかは別れるかもしれない。そんな風に考えるんだ』
 ユウくんの言葉を思い出す。
 軽い感じで言っていたそれに、本当はどんな思いが込められているか、どうしてユウくんがそんな風に考えてしまうのか。その答えを、多分私は知っていた。 
(きっと、あんなことがあったからだよね)
 私は、それが悲しかった。誰かを好きになって、それがずっと続くことだってあるんだよって伝えたかった。
 だから、つい告白みたいなことをしてしまったけど、うまくいかなかったな。
 でも、やっぱりこれでよかったんだ
(妹みたいなものなら、ずっと好きでいてくれるよね)
 ユウくんが誰とも付き合わないなら、私の恋は決して実らない。
 けど勘違いしてくれたおかげで、これからも妹でいられる。好きでいてもらえる。
「ユウくんの妹で良かった。勘違いしてくれて良かった」
 決してユウくんには聞こえないくらいの小さな声で、何度も繰り返し呟いた。
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