伝えたい想いは歌声と共に

様子のおかしい藤崎【啓太side】

 藤崎の様子がおかしい。
 北野がそう言ってきたのは、軽音部に入部した次の日の昼休みのことだった。
「藍に何があったのよ。どう見ても変じゃない」
 北野はそう言って、教室の隅にいる藤崎を見る。
 藤崎はどこか暗い表情をしていて、何か良くないことがあったんだろうと一目でわかった。
「何聞いても上の空だし、昨日部活で何かなかった?」
「俺だってわかんねえよ。部活であったことといえば、元部員の先輩が来てたくらいだ」
 藤崎の様子がおかしいことくらい、北野に言われなくても、俺だって気づいてた。
 けどどうしたんだって聞いても、返って来たのは、何でもないの一言だ。
「気になるなら、俺より藤崎に直接聞いたらいいだろ」
「聞いたよ。だけど何も無いって言われて、それで終わり。そんな訳ないのに」
「それじゃお手上げだな。お前で無理なら、俺にどうにかできるわけないだろ」
 北野は、藤崎の一番仲のいい友達だ。
 そんな北野でもダメなら、俺に何とかできるとは思えなかった。
 そこまで話すと、席を立って教室から出て行く。
 けれど、俺がさっき話したことには、少しだけ嘘があった。
 藤崎に何があったのかは知らない。けど、心当たりが全く無いわけじゃない。
 と言うか、藤崎をあんなに動揺させる何かなんて、ひとつしか考えられない。
「先輩と、何かあったんだろうな」
 そこまで考えたところで、胸がザワザワする。
 面白くないんだ。藤崎が、先輩のことで喜ぶのも、悲しむのも。
 昔から、先輩は何度も藤崎を笑顔にしていた。
 けどな、一番藤崎を泣かせたのも、先輩なんだ。
 四年前、先輩が死んだ日のことを、俺は今でもよく覚えている。
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