あの日に置いてきた恋をもう一度あなたと
 菜月は一歩前に足を出すと、真っすぐに笠井を見つめた。

「ですから、それを怠ることは、私を受け入れてくださった御社も、私を信頼して派遣してくれた自社も裏切ることになるのでできません」

 菜月の透き通った声に、室内の空気が一気に変わる。

 笠井はしばし呆然としたようにその場に固まっていたが、机に置いた拳をぐっと握り締めると静かに立ちあがった。


「綾瀬さんの言う通りですね……」

 笠井はやや紅潮した頬を覗かせる。

「僕の仕事は、システムの責任者である綾瀬さんと、社内のパイプ役を務めること。日々の仕事に追われて、そのことを疎かにしてました」

 笠井は自分自身に大きうなずくと、すっきりとした顔を上げた。

「デイヴィッドの要望は、僕が一度しっかりと聞いてきますので、それから対応を打ち合わせさせてください」

 笠井はそう言うと、いきいきと駆け出すように部屋を出て行く。

 一瞬静まり返った室内は、すぐに皆の納得したような顔つきに包まれた。


「綾瀬さん、すごいね」

 宮本の声に、菜月ははにかむように肩をすくめると、再びパソコンの画面へ目線を向けたのだ。
 
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