あの日に置いてきた恋をもう一度あなたと
「綾瀬に名前で呼ばれると、急に昔に戻ったみたいだな」

 優しく口元を引き上げる凌平からは、ふわっとあの頃とは違う大人の男性の香りが漂ってくる。

(あぁ、どうしよう……)

 菜月は今までに感じたことがない程の胸の高鳴りに、戸惑いながら顔をうつ向かせた。

 今目の前にいるのは、いつも制汗スプレーの香りを漂わせていた頃の凌平とは違う。

 もう立派な大人になった凌平なのだ。


「あ、あの……」

 しばらくして、どぎまぎと菜月が口を開いた時、凌平のデスクでスマートフォンが着信を告げる音がする。

「悪い、電話だ。綾瀬も適当な所で切り上げて帰れよ」

 すでにリーダーの顔つきに戻った凌平は、何事もなかったかのように、にっこりとほほ笑むと、スマートフォンを耳にあてながら部屋を出て行った。


 菜月は、まだ早いスピードで鼓動を刻んでいる自分の胸元に、ぎゅっと両手を当てる。

 凌平の顔を目の前で見た瞬間、菜月の中で一気に湧き上がってきたもの。

(この気持ちは……)

 ドキッと顔を上げた菜月は、慌ててパソコンをシャットダウンすると、頬を染めたまま、駆け足でオフィスを後にした。
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