あの日に置いてきた恋をもう一度あなたと

突然の再会

 春の心地よい風が吹く中、菜月は目の前にそびえ立つ高層ビルを見上げる。

「今日から新しいオフィスでの勤務。出向先の皆さんの力になれるように頑張らなきゃ」

 菜月はパンパンと自分の頬に気合を入れると、今日から勤務するオフィスビルのエントランスに入った。


 外資系保険会社が入るこのビルは、都会の一等地に建っており、エントランスにはいかにも優秀そうなスーツ姿の人々が颯爽と歩いている。

 菜月は鞄を持つ手にぎゅっと力を込めると、人々の流れに遅れを取らないようエレベーターに乗り込んだ。


 菜月は、他社向けのシステム開発を手掛けるIT企業で働くシステムエンジニアだ。

 システムエンジニアと一言で言っても、自社でシステム開発や設計を担当する人もいれば、菜月のようにお客様の会社へ出向し、その企業の一員として勤務する人もいる。

 菜月は入社当初から、企業に出向する社員として働いていた。

 出向先での主な業務は、納品したバックオフィスシステムの保守と運用だ。
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