あの日に置いてきた恋をもう一度あなたと

懐かしい町へ

 潮の香りが心地良く鼻先をかすめる。

 駅に降り立った菜月は、大きく腕を伸ばすと、一気にその懐かしい香りを全身に吸い込んだ。

 あれからしばらく経ったある週末、菜月は凌平と共に地元に帰って来ていた。


「帰って来るのは久しぶりか?」

 凌平は日差しに目を細めると、菜月の隣で同じように腕を伸ばす。

「まぁね。なんだか年々足は遠のいちゃってたんだよね」

 菜月は小さく肩をすくめると、再び目の前の風景に目を向けた。


 菜月と凌平の故郷であるここは、海からの湾沿いにある小さな町だ。

 町の中心を三本の川が流れる自然豊かな地域で、清らかな水が流れる山あいには茶畑が広がっている。

 菜月も実家を出てすぐの頃は、年に数度は帰って来ていたが、最近ではそれも年末年始くらいに限られていた。


「少し歩こうか」

 凌平の声に、小さくうなずく。

 こうして凌平の隣を歩くだけで、あの頃の思い出が一気に蘇ってくるようだ。
< 33 / 51 >

この作品をシェア

pagetop