あの日に置いてきた恋をもう一度あなたと
「綾瀬は本当に、自分のことより、親や他人のことを思いやれる人なんだな」

 凌平は独り言のようにそう言うと、菜月の頭に広くて大きな手をポンとのせる。

「勇気を出して、自分の思いを親に伝えれば良いと思う。きっと綾瀬の親は、わかってくれると思うよ」

「凌平……」

「俺はいつでも、綾瀬のこと、応援してるから」

 凌平の優しく力強い声に、菜月は「うん」とうなずいた。


 その時、頭に乗っていた凌平の手がそっと離れ、菜月の頬をかすめる。

 戸惑ったように見上げた菜月の前で、凌平の頬はピンクに染まっていた。

「凌平、どうしたの……?」

 菜月は、自分の心臓がトクトクと早足で刻みだしたのを感じながら、上目遣いで見上げる。

「……菜月」

 その瞬間、ふいに耳元で呼ばれた名前に、菜月の心臓はドキンと跳ねた。


(あぁ、あの時、萌絵は見てたんだ……)

 菜月はそっと目を閉じる。

 あの後しばらくして「お待たせー!」という元気な声が響き、萌絵が教室に飛び込んできたのだ。
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