あの日に置いてきた恋をもう一度あなたと

垣間見えるあの頃の顔

 それからしばらく、菜月は新しいオフィスで右往左往する日々を過ごしていた。

 自社で働くのとは違い出向の大変な所は、新しい出向先に行くたびに、しばらくはその会社の風土に慣れるのに苦労するところだ。

 たとえ同じ業種の企業であったとしても、会社によって組織は全く違う。

 システム自体は自社の商品なので知識はあるが、まずはその会社の組織に馴染まなければいけないのだ。


 そして今回出向してみて驚いたのが、外資系であるこの企業は指示系統が非常にシンプルで、とにかくスピードと結果が重視されているということだった。

 今まで出向した日本企業は、何か一つシステムを変えるにしても、確認部署が多すぎて全く話が進まないこともあったが、ここはダイレクトに指示が飛んでくる。

 基本的にはシステム部の笠井が間に入ってくれるが、直接的な話がしたいと菜月が呼ばれることも多かった。


 今日も朝からプログラム画面を見続けていた菜月は、一旦大きく伸びをすると、マグカップに入ったコーヒーに口をつける。
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