あの日に置いてきた恋をもう一度あなたと
 その瞬間、凌平ははっと我に返ったように顔を上げると、急にフロアに入って来た時と同じようなリーダーの顔つきになる。

「あぁ、高校の同級生なんだ。卒業以来だから、もう十年か?」

「そ、そうだね」

「新しいSEが来るとは聞いていたが、まさか綾瀬だったとはな。うちの部署も関わることがあると思うから、これからよろしく」

 凌平はまるで昔の軽い顔見知りに挨拶するようにそう言うと、すぐに部署の打ち合わせに移動して行った。


 別に感動の再会を期待していたわけではない。

 でもどこかで「もし凌平だったのなら……」と心が弾んだのは本当だ。

(凌平にとっては、私なんてただの同級生だもんね。しょうがないよ)

 凌平は今やこの企業で、立派に部署のリーダーを務めるほどになっているのだ。

 高校生の頃の淡い思い出など、きっともう忘れているだろう。

 菜月は自分を納得させるようにうなずくと、仕事に集中しようと気合を入れ直した。
< 7 / 51 >

この作品をシェア

pagetop