あの日に置いてきた恋をもう一度あなたと
 もうすっかり冷めてしまったコーヒーの砂糖の甘みを感じながら、菜月は横を向くと、パソコンに向かう凌平の顔をそっと伺った。

 菜月の席は一番奥に配置されており、凌平のデスクからはちょうど対角線上にある。

 凌平は今日もいつもと同じように、忙しく打ち合わせや電話対応に追われていた。

 この新規事業開発室は、新しい保険商品の企画立案や市場調査が主な業務のようで、アメリカの支社とのやり取りも多いのか、凌平が英語で電話をする声も度々聞こえていた。


(私が知らない間に、見違えるほどカッコよくなっちゃったんだな)

 菜月の脳裏に高校時代の思い出が浮かんでは消えていく。

(まぁ凌平は、あの頃から人気者だったもんね)

 菜月はくすりと笑うと、凌平の横顔に高校時代の面影を重ねる。


 菜月と凌平は高校の三年間同じクラスだった。

 入学当初からその容姿で目立っていた凌平は、女子に呼び出される姿を見かけることも多く、菜月は初め自分には縁のない世界の人だろうと思っていた。
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