―待ち合わせは、 名前を忘れた恋の先で―
エピローグ|待ち合わせは、名前を忘れた恋の先で
白いベールが、風に揺れた。
陽だまりの庭に、小さな祝福の花びらが舞う。
あのとき話していたガーデンウェディング。
小さな豆柴が、リングドッグとして笑顔で駆けてくる。
──ああ、夢みたいだ。
目を閉じると、あの日の坂道のことが浮かぶ。
記憶が戻った瞬間の、あの胸の痛みと温かさ。
忘れていたものは、
悲しいことばかりじゃなかった。
嬉しいことも、笑ったことも、全部──
ちゃんと、私の中に残っていた。
「紬」
振り返ると、タキシード姿の高瀬くんが立っていた。
あの頃と変わらない笑顔。
けれど、少しだけ大人になったその瞳に、私のすべてが映っている気がした。
「……名前、思い出してくれてよかった」
「ううん。名前だけじゃないよ。
大翔くんと過ごした、全部。思い出せて、よかった」
彼がそっと手を差し出す。
私は迷いなく、その手を取った。
「……待たせて、ごめんね」
「俺の方こそ。ずっと、会いたかった」
小さな指輪が、光を受けてきらめく。
長く遠回りをしたふたりが、ようやくたどり着いた場所。
──“はじめて”の出会いは、音楽室だった。
──“ふたりだけの再会”は、本屋だった。
そして──
──“約束”を交わしたのが、今ここだった。
「行こう。これからの、ふたりの時間へ」
「うん……行こう」
風がそっと吹いた。
ベールの先に、まぶしい未来が見えた。
──待ち合わせは、名前を忘れた恋の先で。
そして今、ふたりで歩いていくのは──
名前を呼び合える、未来のその先へ。
陽だまりの庭に、小さな祝福の花びらが舞う。
あのとき話していたガーデンウェディング。
小さな豆柴が、リングドッグとして笑顔で駆けてくる。
──ああ、夢みたいだ。
目を閉じると、あの日の坂道のことが浮かぶ。
記憶が戻った瞬間の、あの胸の痛みと温かさ。
忘れていたものは、
悲しいことばかりじゃなかった。
嬉しいことも、笑ったことも、全部──
ちゃんと、私の中に残っていた。
「紬」
振り返ると、タキシード姿の高瀬くんが立っていた。
あの頃と変わらない笑顔。
けれど、少しだけ大人になったその瞳に、私のすべてが映っている気がした。
「……名前、思い出してくれてよかった」
「ううん。名前だけじゃないよ。
大翔くんと過ごした、全部。思い出せて、よかった」
彼がそっと手を差し出す。
私は迷いなく、その手を取った。
「……待たせて、ごめんね」
「俺の方こそ。ずっと、会いたかった」
小さな指輪が、光を受けてきらめく。
長く遠回りをしたふたりが、ようやくたどり着いた場所。
──“はじめて”の出会いは、音楽室だった。
──“ふたりだけの再会”は、本屋だった。
そして──
──“約束”を交わしたのが、今ここだった。
「行こう。これからの、ふたりの時間へ」
「うん……行こう」
風がそっと吹いた。
ベールの先に、まぶしい未来が見えた。
──待ち合わせは、名前を忘れた恋の先で。
そして今、ふたりで歩いていくのは──
名前を呼び合える、未来のその先へ。

