―待ち合わせは、 名前を忘れた恋の先で―
第8章|再会と、動き出す記憶
大学生になって、ひとり暮らしを始めた。
それでも、地元は離れていない。
通学に使う駅も、高校生の頃と同じだった。
けれど──今も変わらず、
あの三年間の記憶だけが、私の中からすっぽりと抜け落ちたままだ。
なぜなのかも、どうしてなのかも、分からない。
無理に思い出そうとすると、胸の奥がざわついて、呼吸が浅くなる。
だから私は、それ以上触れないようにしてきた。
大学のキャンパスは、新宿にある。
人の多さと喧騒に最初は戸惑ったけれど、今では少しずつ慣れてきた。
授業を終えて、改札へと向かう途中――
すれ違いざま、私はふと足を止めた。
視線の先に立っていたのは、背の高い男の人。
すこし焼けた肌に、無造作に整えられた黒髪。
たくさんの人の中にいても、自然と目を引くような雰囲気をまとっていた。
制服じゃないのに、なぜか“あの頃”の匂いがした。
たぶん、声をかければ、優しく笑いかけてくれそうな――そんな空気。
でも、私はその名前を知らない。
知っていたはずなのに、まるで初めて見るみたいに感じた。
男の人が、こちらを振り返る。
目が合った瞬間、胸の奥がちくりと痛んだ。
(……どこかで、会ったことがある気がする)
彼は私をじっと見つめてから、小さく微笑んだ。
私はただ立ち尽くすしかできなくて、名前も、声も、思い出せなかった。
けれど――
その瞳が、どうしようもなく懐かしかった。
それでも、地元は離れていない。
通学に使う駅も、高校生の頃と同じだった。
けれど──今も変わらず、
あの三年間の記憶だけが、私の中からすっぽりと抜け落ちたままだ。
なぜなのかも、どうしてなのかも、分からない。
無理に思い出そうとすると、胸の奥がざわついて、呼吸が浅くなる。
だから私は、それ以上触れないようにしてきた。
大学のキャンパスは、新宿にある。
人の多さと喧騒に最初は戸惑ったけれど、今では少しずつ慣れてきた。
授業を終えて、改札へと向かう途中――
すれ違いざま、私はふと足を止めた。
視線の先に立っていたのは、背の高い男の人。
すこし焼けた肌に、無造作に整えられた黒髪。
たくさんの人の中にいても、自然と目を引くような雰囲気をまとっていた。
制服じゃないのに、なぜか“あの頃”の匂いがした。
たぶん、声をかければ、優しく笑いかけてくれそうな――そんな空気。
でも、私はその名前を知らない。
知っていたはずなのに、まるで初めて見るみたいに感じた。
男の人が、こちらを振り返る。
目が合った瞬間、胸の奥がちくりと痛んだ。
(……どこかで、会ったことがある気がする)
彼は私をじっと見つめてから、小さく微笑んだ。
私はただ立ち尽くすしかできなくて、名前も、声も、思い出せなかった。
けれど――
その瞳が、どうしようもなく懐かしかった。