陽だまりのエール
水曜日、私がいつも通り帰宅すると、珍しく陽希が家にいた。
どうやら、久しぶりにゆっくりした休日だったようだ。
部屋着のハーフパンツにTシャツ、セットしていない無造作ヘアの姿で、キッチンから顔を覗かせる。
「あ。お帰り、紬」
「陽希……。えっと、ただいま……」
土曜日の夜以来、まともに顔を合わせるのは初めてだった。
ついあの時のことを思い出し、私は怯んだ返事をしてしまった。
そんな私の反応に、陽希が気づかないわけがない。
ちょっぴり困ったように眉をハの字に下げ、そのままキッチンに引っ込んでいく。
長年一緒に暮らしてきたから、こういう時の間合いの取り方は心得ている。
掘り返したりせず、自然に振る舞う。
心地よく過ごすために、私たちはずっとこうしてきた。
そして陽希は今も、そうしてくれている。
だから私も、頭を振って雑念を払い除けた。
「陽希……休みだったの?」
気を取り直してリビングに入り、カウンターの向こうに立つ彼を振り返った。
「んー。午後からね」
間延びした返事を聞きながら、ソファにバッグを置く。
キッチンから、なにやらいい匂いがする。
エプロンを着けているのを見ると、陽希は料理中だったようだ。
『なに作ってるの?』と、私が聞くより早く、
「紬、メシまだだろ?」
陽希が再びひょいと顔を出す。
「久しぶりに一緒に食べようよ。タコライス作ったから」
「え? タコライス!?」
「うん。好きでしょ」
大好物の名前に反応して、私はキッチンに駆け込んだ。
「んーっ。このいい匂いは、タコミートのチリソースだったか……」
コンロのフライパンに、香ばしい香りを漂わせるたっぷりの挽肉。
広い調理台に、綺麗にカットされたレタスにトマト、アボカドが、それぞれザルに分けて置かれている。
「チーズは冷蔵庫にあるよ。ほかほかご飯にちょっとのせて溶かして食べるのが、紬流だろ?」
「って、陽希……そのほかほかご飯は?」
彼がちょっぴり得意げに語る途中、私は炊飯器を開けて眉をひそめた。
「え?」
陽希もぴたりと喋るのをやめて、私の手元に目を落とす。
白い湯気が立ち昇るわけがない。
炊飯器に、お米はセットされていなかった。
お互い顔を見合わせ、気まずい沈黙が流れる。
そして。
「紬、レトルトご飯、買ってあったっけ?」
「ないね。私も陽希も防災意識低いし」
「ううう……」
痛恨のミスに渋い顔で唸る彼に、私は思わず吹き出してしまった。
陽希にしては珍しい凡ミス……とは言わない。
なんでもそつなくこなしそうなのに、実は意外とこういうところがあるのが陽希だ。
「大丈夫大丈夫。早炊きモードで炊けば、一時間もかからないから!」
私は彼の腕をポンと叩き、炊飯器からお釜を取り出した。
「私、その間にお風呂入ってくる。今日は疲れたし、久々に湯船浸かってゆっくりしちゃおうかな」
複雑で微妙な表情を浮かべる彼に、ちょっぴりおどけて笑いかける。
「……うん」
すると、彼も眉をハの字に下げた。
「俺がやるから。紬、風呂入っといで」
お米を測ろうとする私からお釜を取り上げ、グイグイ背中を押してくる。
「いいの?」
「俺のミスだし、当然でしょ。ゆっくりカロリー消費しといで」
「んー……じゃ、お腹空かせて、チーズ増し増しにしちゃおっかな!」
肩越しに、彼の照れ臭そうな笑顔を見上げて、私は声を弾ませた。
どうやら、久しぶりにゆっくりした休日だったようだ。
部屋着のハーフパンツにTシャツ、セットしていない無造作ヘアの姿で、キッチンから顔を覗かせる。
「あ。お帰り、紬」
「陽希……。えっと、ただいま……」
土曜日の夜以来、まともに顔を合わせるのは初めてだった。
ついあの時のことを思い出し、私は怯んだ返事をしてしまった。
そんな私の反応に、陽希が気づかないわけがない。
ちょっぴり困ったように眉をハの字に下げ、そのままキッチンに引っ込んでいく。
長年一緒に暮らしてきたから、こういう時の間合いの取り方は心得ている。
掘り返したりせず、自然に振る舞う。
心地よく過ごすために、私たちはずっとこうしてきた。
そして陽希は今も、そうしてくれている。
だから私も、頭を振って雑念を払い除けた。
「陽希……休みだったの?」
気を取り直してリビングに入り、カウンターの向こうに立つ彼を振り返った。
「んー。午後からね」
間延びした返事を聞きながら、ソファにバッグを置く。
キッチンから、なにやらいい匂いがする。
エプロンを着けているのを見ると、陽希は料理中だったようだ。
『なに作ってるの?』と、私が聞くより早く、
「紬、メシまだだろ?」
陽希が再びひょいと顔を出す。
「久しぶりに一緒に食べようよ。タコライス作ったから」
「え? タコライス!?」
「うん。好きでしょ」
大好物の名前に反応して、私はキッチンに駆け込んだ。
「んーっ。このいい匂いは、タコミートのチリソースだったか……」
コンロのフライパンに、香ばしい香りを漂わせるたっぷりの挽肉。
広い調理台に、綺麗にカットされたレタスにトマト、アボカドが、それぞれザルに分けて置かれている。
「チーズは冷蔵庫にあるよ。ほかほかご飯にちょっとのせて溶かして食べるのが、紬流だろ?」
「って、陽希……そのほかほかご飯は?」
彼がちょっぴり得意げに語る途中、私は炊飯器を開けて眉をひそめた。
「え?」
陽希もぴたりと喋るのをやめて、私の手元に目を落とす。
白い湯気が立ち昇るわけがない。
炊飯器に、お米はセットされていなかった。
お互い顔を見合わせ、気まずい沈黙が流れる。
そして。
「紬、レトルトご飯、買ってあったっけ?」
「ないね。私も陽希も防災意識低いし」
「ううう……」
痛恨のミスに渋い顔で唸る彼に、私は思わず吹き出してしまった。
陽希にしては珍しい凡ミス……とは言わない。
なんでもそつなくこなしそうなのに、実は意外とこういうところがあるのが陽希だ。
「大丈夫大丈夫。早炊きモードで炊けば、一時間もかからないから!」
私は彼の腕をポンと叩き、炊飯器からお釜を取り出した。
「私、その間にお風呂入ってくる。今日は疲れたし、久々に湯船浸かってゆっくりしちゃおうかな」
複雑で微妙な表情を浮かべる彼に、ちょっぴりおどけて笑いかける。
「……うん」
すると、彼も眉をハの字に下げた。
「俺がやるから。紬、風呂入っといで」
お米を測ろうとする私からお釜を取り上げ、グイグイ背中を押してくる。
「いいの?」
「俺のミスだし、当然でしょ。ゆっくりカロリー消費しといで」
「んー……じゃ、お腹空かせて、チーズ増し増しにしちゃおっかな!」
肩越しに、彼の照れ臭そうな笑顔を見上げて、私は声を弾ませた。