陽だまりのエール
俺は最初から、紬のことを、よく周りを気遣ってくれる、明るいいい子だなと思っていた。
趣味や考え方など、共通点が多かったのは確かだが、紬と二人だと、なにをしても楽しかった。
他のシェアメイトたちと過ごすのとは、ちょっと違う。
何故だろう?と考えて、『紬とだから』だと気づいた。
なにをするにも彼女を意識するようになって、気づけばなによりも大切で、愛おしい存在に変わっていた。
もちろん、ちゃんと付き合って、普通の恋人同士のようなことがしたいとは思っていた。
しかし、紬が俺と同じ気持ちじゃなかったら?
今の生活が壊れるかもしれない。
そんな危険を冒してまで、彼女との関係を変えるのは本意ではなかった。
長い年月の間に大きく膨らんだ想いを封じ込めることと引き換えに、俺は幸せな時間を過ごしてこれた。
しかし、自分のロンドン赴任が決まった時、思い知らされた。
ただのシェアメイトのままでは、ずっと一緒にはいられないのだとーー。
「だからって、勝手に欲しがっちゃいけなかったよな……」
寂しく呟き、俺は彼女に手を伸ばした。
寝乱れたダークブラウンの髪を、そっと撫でる。
紬が「ん……」と唸ったが、目覚める気配はない。
思った以上に深く眠り込んでいるようだ。
それならば、今俺にできることは、この穏やかな寝顔を守ること、それだけだろう。
ゆっくりと立ち上がり、無言で一度、彼女を見下ろす。
足を引いて、ベッドから離れた。
そして、振り返ることなく、彼女の部屋を出た。
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