陽だまりのエール
***


八月最後のミーティングが終わり、会議室を出たところで、私は肩を回して身体を解した。
「やっと一つ終わったー!」
厳密にいえば、一つ目のハードルをクリアした、というところ。
だけど、このプロジェクト開始から、初めて手応えのようなものを感じられた、この達成感は測り知れない。
両腕を伸ばし、束の間の開放感を喜ぶ私を、後から出てきた他のメンバーたちが、笑いながら追い抜いていく。
「仙崎さん、まだまだ通過点にいるってこと、忘れずに」
「っ、はいっ」
プロジェクトリーダーにポンと肩を叩かれ、私はシャキッと背筋を伸ばした。
「お疲れ様でした!」
先に歩いていくリーダーの背に頭を下げ、姿勢を戻して一息つく。
「まったく……一時はどうなるかと思ったけど、すっかり全快?」
最後に追いついた長谷沼さんが、やれやれとばかりに声をかけてきた。
「あー……その節はご迷惑おかけしました」
私がペコッと頭を下げると、彼女は苦笑気味に頷いてくれる。
「回復したからって、無理は禁物だよ。仙崎さん、わりと無茶しやすいっぽいから」
「はい。気をつけます」
少し顔をしかめて注意されて、私は肩を竦めた。
「ま……どうやら医者の彼氏が目を光らせてるようだし? そこは大丈夫だと思うけど」
長谷沼さんが、悪戯っぽく目を細める。
その言葉に、ドキッと胸が跳ねたものの……。
「……彼氏とか、そういうんじゃないよ」
気恥ずかしくて、私は視線を横に逃がした。
寝不足と疲れが祟って、仕事で外出中に倒れてしまった時、私は陽希が働く病院に搬送されてしまった。
さらに偶然が重なり、陽希にも知られたようだ。
後で目が覚めて、長谷沼さんが陽希と会ったことを聞いて驚いた。
大したことは話していないと言うけど、彼女は私の『結婚間近の彼氏』を陽希だと踏んでいるようで……。
「でも、仙崎さんのこと、ものすごく心配してたよ? イイ男だったし、超ハイスペックだし。あんな人が近くにいたら、私だったら一発で堕ちるってもんなのに。もったいない」
「はは……」
既婚者の、わりと真剣なボヤキに笑って誤魔化しながらも、私は密かに気持ちを引き締めた。
とりあえず、一つハードルをクリアしたことで、仕事は置いておける。
陽希のプロポーズに、ちゃんと結論を出さないと。
陽希の渡英は、九月の第一金曜日。
もう日がないのに、私は未だ自分の気持ちに答えが出せていない。
これ以上、後回しにしていいわけがない。
< 18 / 21 >

この作品をシェア

pagetop