御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました
エレベーターホールまで来ると、彼がボタンを押し、扉が開くと私を先に乗せてくれた。

誰もいない空間に、わずかな緊張が走る。

──そういえば。

ふと、思い出してしまう。

元カレは、こういうことをしてくれる人じゃなかった。

駅まで見送ることもなく、「帰るなら気をつけて」とLINEで済ませるような人だった。

でもそれでいいと思ってた。

恋人なんだから、そんなことは形式的で、必要ないって──

……違う。私は、彼のことが好きだったから、そう自分に言い聞かせてただけなんだ。

10年も一緒にいられた理由はただひとつ。

彼を、純粋に好きだったから。

──けれど、それだけじゃ結婚はできなかった。

そんな思考に沈んでいると、途中の階でエレベーターが開いた。

「あ……」

数名の社員が乗り込んできて、私と神楽木さんの姿を見た瞬間、ほんのわずかに空気が変わった。

「部長、お疲れさまです。」

「ああ。」
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