御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました
神楽木さんは軽く頷き、私にも目を向ける。

そして、次の階でもまた扉が開き、今度は数人が一斉に乗り込んできた。

さすがは一流企業──出入りする人の数も、スーツの質感も、どこか漂う空気感さえ違う。

私は自然と身体をすぼめ、他の人にぶつからないように立ち位置を調整する。

──その時だった。

「……狭くないですか?」

低く抑えた声が、耳元に落ちてきた。

ドキッとする。

反射的に振り返りそうになって、けれど横を向けない。

距離が近すぎて、顔を向けたら頬が触れてしまいそうだから。

神楽木さんは、ほんの僅かに私の前へと身体をずらしていた。

そして、彼の手がそっと壁に添えられている。

まるでガードするように。──他の人が、私に近づけないように。

誰にも気づかれないように、自然に。

でも、確実に“守られている”と感じられる距離感。

胸がじわっと熱くなった。
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