御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました
律さんが、私の頬にそっと触れた。

「全部は捨てられない。でも――」

その声はとても静かだったけれど、胸の奥に響いた。

「それで千尋を捨てたりしない。たぶん……俺なりの“共存”の仕方を選ぶと思う。」

――共存。

その言葉に、張り詰めていたものが一気に崩れていくのが分かった。

「……ううっ……」

こらえきれず、声を漏らしてしまった。

涙が頬を伝い落ちる。

共存の道。

本当は、あの時、悠太ともそれができたのかもしれない。

でも彼は、私に問うこともせずに、自分一人で結論を出してしまった。

私の意志を聞くこともなく――

「千尋……」

律さんが私を、力強く抱きしめてくれる。

その胸に、私は顔をうずめた。

あたたかい。
やさしい。
迷わず、私を守ろうとしてくれる腕の中。

その時、律さんが腕を伸ばして、コンロの火を静かに消した。

「晩ごはんは、後でいいよ。千尋の涙、乾くまで、ずっとこうしてる。」
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