御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました
「律さん……ごめんね。疲れてるのに夕食まで……」

私は慌てて靴を脱ぎ、急いで着替えてエプロンを手に取る。

「いいんだよ。今日は早く帰れたから、たまには俺がやろうかなって思って。」

振り返った律さんは、いつもの優しい笑顔だった。

その笑顔が、今日の疲れをふわっと溶かしてくれる。

手を洗いながら、ふと胸の奥から込み上げてきた疑問が口を突いた。

「……律さんは、もし私が“神楽木フォールディングスを捨てて”って言ったら、捨てられる?」

律さんは手を止めた。

そして、ゆっくりとフライパンを置いて、私の方を見た。

「何、それ。随分と難しい質問するね。」

でも、笑ってはいなかった。

「たとえば……政略も、跡継ぎも、全部やめて。普通の人として、私だけを選んでくれるかって聞いてるの。」

自分でも驚くほど真剣な声だった。

律さんはしばらく黙ったまま、私の前まで来て、そっと私の頬に触れた。
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