御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました
私は思わず湯呑みをぎゅっと握りしめる。

神田部長は、ひとしきりにやけた顔で頷いた。

「なら、よし!」

「え?」

「いや~、まさか御曹司相手に“恋愛に発展するので”なんて始末書、初めて見たからね。これはもう、社内の伝説になるよ、朝倉!」

「や、やめてくださいっ……!」

──本当に、穴があったら入りたい。

でも。

その隣で、律さんが静かに笑っているのが分かった。

そして今回も、神楽木さんは私たちをエントランスまで見送ってくれた。

「朝倉さん。少しいいですか?」

ふいに名前を呼ばれ、私は足を止めた。

部長は少し先を歩いている。──今なら、少しだけ話せる。

「……はい?」

すると、神楽木さんは私の肩をそっと抱き寄せてきた。

それは誰にも気づかれないように、ごく自然な動きで──でも、私は一瞬にして息を呑んだ。

「始末書って、どういうこと?」

その声は低く、小さく、それでも真剣だった。
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