御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました
それが理由だった。
……はずだった。

「ここですよ。」

案内された先、見上げた建物に、私は息を呑んだ。

外観からして洗練された雰囲気。

そこは、雑誌やSNSでも話題になる都内有数のレストランだった。

「ここ……都内でも有名な……」

言いかけた私に、神楽木さんはさらりと言った。

「特別な夜だからね。」

そう言って、当たり前のように私の手を取り、エスコートしてくれる。

気づけば私は、その手を受け入れていた。

“特別な夜”──

そう言われた瞬間、心のどこかで何かが変わった気がした。

神楽木さんは、注文の仕方もスマートだった。

メニューに一瞥をくれると、まるで何度も通っているかのような手慣れた口調で、料理とワインをオーダーしていく。

「こちらのテリーヌは、季節のフルーツとの相性が抜群なんです。朝倉さんもぜひ。」

そのさりげない気遣いに、私の緊張は少しずつ溶けていった。

静かに流れるピアノの音。

窓の外には、都心の夜景。
< 35 / 252 >

この作品をシェア

pagetop