御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました
深々と頭を下げた律さんの背中に、私は一瞬、息を呑んだ。

本当にこの人は、真剣なんだ……。

「いやいや……」

父は困惑しながらも、なんとか言葉を探している。

「千尋ももう三十だし、いい人がいれば……結婚は許すよ、もちろん。」

「お、お父さん⁉」

「なあに、律さん、しっかりした人そうじゃないか。」

「お茶、淹れ直してくるわね。」

母が急に立ち上がり、台所に向かう。

ポットを手にする後ろ姿が、いつになくそわそわしていた。

律さんは少しだけ笑って、私の方を見た。

その目には、安心と決意が入り混じっていて──私の胸がまた、ざわめいた。

「ただ……ひとつだけ気になることがある。」

父が口元に手を添えながら、私を見つめた。

「交際期間だ。」

息が止まる気がした。

「まさか──元カレと別れる前から付き合ってたなんてことは、ないよな?」

「あの……っ」

慌てて口を開きかけた私の隣で、律さんが深く息を吸い込んだ。
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