御曹司との交際0日婚なんて、聞いてません!──10年の恋に疲れた私が、突然プロポーズされました
「交際は──しておりません。」

「……え?」

「正直に申し上げます。私は、千尋さんに初対面で“交際0日婚”を申し入れました。」

キッチンの奥から、ガチャンと陶器が割れる音がした。

「……は?」

父は眼鏡を外し、目をこすり、もう一度掛け直す。

「0日……婚?」

「はい。」

律さんの声は揺らがなかった。

「初めてお会いしたその瞬間、私は思いました。この人と結婚したいと。」

部屋の空気が、凍りついたように静まる。

父の手が、微かに震えていた。

「──そう、なんだ……」

その声には、困惑と戸惑い、そしてほんの少しの寂しさが混じっていた。

「で、いつ結婚するつもりなんだ?」

父が、少し低い声で問いかけた。

「……できれば、きちんと交際期間を経てほしい。千尋ももう大人だし、分別はあると思うが──やっぱり常識的に考えて、交際ゼロでの結婚は不安がある。」
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